不動産売却を検討されている多くの方が「不動産売却一括査定サービス」を利用しています。一括査定サービスは複数業者による激しい競争が起こるため、相場を無視した「高額査定」が提示されがちです。
査定に行くと「お宅はいくら?」って真っ先に聞かれるけど、本当に大切な質問なんですかね?
価格以外に聞くべきことはたくさんあるのに不思議な質問ですね。
価格は売主が決めるのに…。
今回は一括査定時の高額査定が売却時にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
不動産売却一括査定サービスで「高額査定」が提示される仕組み
不動産売却一括査定サービスとは?
インターネットからの一度の申し込みで簡単に複数の不動産会社に査定依頼を出せるサービスのことです。代表的な一括査定サイトとして「イエウール」「リビンマッチ」などがあります。
一括査定のメリット・デメリット
一括査定のメリットとデメリットは次の通り。
【メリット】
●複数業者から話を聞くことができる。
●インターネットから気軽に査定を依頼できる。
【デメリット】
●登録すると各業者から鬼のように電話がかかってくる。
●業者間で競争になり、無謀な高額査定を提示する業者が出てくる。
比較したい不動産業者一つひとつに連絡したり訪問したりする必要がないため、時間的な余裕がない方でも気軽に申込でき利用者はますます増えています。「気軽さ」が一括査定サイトの長所と言えます。
一方で、一括査定サイトは複数の業者が利用しているため、一つの問い合わせに対して複数業者間での熾烈な競争が生じます。なぜなら、一括査定サイトは一つの問い合わせにつき「約1万円」程度の利用料が不動産業者から一括査定サイトに支払われているからです。
一括査定利用者の中にはすぐの不動産売却を考えていない人や、価格だけを知りたい人もいます。
そのような媒介契約取得の確度が低い問い合わせに対しても不動産業者は課金していかなければならないため、熾烈な競争が起きてしまうのです。
無謀な高額査定
上記のように業者間での熾烈な競争が一括査定の現場では日々起こっています。そして、競争に勝つために多くの業者がやっていることが無謀な「高額査定」の提示です。
通常の査定であれば、過去の成約事例と現在の販売状況からおよその坪単価(A)、そして不動産の特徴(形・接道・広さなど)(B)を加味して、最終的な査定額(C)を提示します。
成約事例や現在の販売状況などは国土交通省指定の不動産流通機構が運営する「REINS(レインズ)」を参照するため、(A)に業者間での差がほぼありません。(B)は業者毎で捉え方が異なるため差が出る場合もありますが数百万以上の大きな差は出ません。
高額査定は、(C)の査定額に数百万円以上をプラスします。結果的に、相場よりも数百万円割高な査定額が売主に提示されることになります。
高額査定の原因は?
では、なぜ不動産業者は高額査定を提示するのでしょうか。
実は高額査定は、不動産業者にとっても、売主にとっても都合が良いからです。
不動産業者の都合
【不動産業者が高額査定を提示する理由】
●売主の業者選択の選択肢になり興味を引くため
●媒介契約を取得するため
査定額を正直に提示してしまうと、他社に査定額で負けてしまっていた場合に「競争に負けて売主から選んでもらえない」可能性が出てしまいます。そのため、相場を無視した高額査定を提示して、価格の段階で他社に負けないように高額査定を提示するのです。
我々不動産業者も必死です。媒介契約を取得するために毎月数十万円を一括査定サービスに課金しています。
一括査定に来た問い合わせは、自社が媒介契約を取得しても課金、そして他社が媒介契約を取得しても課金されます。問い合わせが1件あっただけで全業者が課金されます。課金が無駄になる可能性があるわけですから、査定という入口の段階で他社に負けたくない気持ちもわかります。ちなみに媒介契約の取得数や取得率もボーナスの査定に反映される不動産業者も多いので、営業マンも必死になりますね^^;
媒介契約を獲得できれば、後は不動産業者のやりたい放題です。媒介契約を獲得できさえすれば、売れずに長期在庫になった段階で適正価格まで値下げしてもらい、あとは売れるのを待つだけです。ひどい場合は売れ残ったことを理由に買取をすすめてくる場合もあります。
売主の都合
売主の最大の希望は不動産を「高く」売ることです。
だから、高額査定は売主にとって最も都合が良いのです。一番高い査定額を選んでしまうのは当然と言えます。
しかし、不動産売却において高額査定で提示された価格で売却を開始することは本当に売主にとってメリットのあることなのでしょうか。
結論を言うと、相場を無視した価格で売却を進めていくのは大きなデメリットがあります。
高額査定は不動産売却失敗の原因
売主が被る高額査定の悪影響
高額査定によって提示された価格を信じて売却を開始する売主はたくさんいます。
では具体的にはどのような悪影響があるのでしょうか。
【高額査定で売主が被る悪影響】
●最も売れやすい時期を損失する
●買主の選択肢に入らず内覧も生じない
●相場価格よりも値下げしなければならない可能性がある
最も売れやすい時期を損失する
不動産が最も売れやすい時期は、販売開始から約3か月前後です。この期間は、ポータルサイトで新着物件として優先表示されたり、レインズに掲載されて他業者が過去の見込み客に新着物件として紹介したり、新しい物件が出た新鮮さが最も輝く時期です。
最も輝く時期に「割高な物件」は買主の選択肢に入るでしょうか。
昔と違い、ポータルサイトの普及によって相場価格を誰でも簡単に知ることができる時代になっています。例えばマンションの相場も、グーグルでマンション名を入れると事例が簡単に出てきます。つまり、買主はネットで情報を調べることができるので、割高な物件を内覧する前に候補から外すことができるのです。
フレッシュな時期に「割高」と判断されれば、売れ残っていくことは当然ですね。
買主の選択肢に入らず内覧も生じない
物件の魅力は、営業マンのトーク力ではなく、物件の内覧で買主に伝わります。いくら口のうまい営業マンが対応しても、最も重要なのは物件自体の魅力です。内覧時に気に入ってもらえるかどうかが成約に影響を与えます。
しかし、割高な物件は問い合わせの段階で候補に入る可能性が低いため内覧にもならないことがほとんどです。
たとえ内覧が入っても、買主は内覧しながら次のように思うでしょう。
「物件の良さはわかるけど、高いなあ~…」
物件の良さが価格を上回っていれば成約になるかもしれませんが、多くの方は価格を重視されます。
最終的に価格ネックで見送るとなる事例が多いです。
相場価格よりも値下げしなければならない可能性がある
割高な価格が原因で成約にも内覧にもつながらない物件は売り方を変更しなければなりません。
具体的には「価格を下げる」ことになります。
長期の売れ残りになればなるほど、価格を下げていくしか方法はなく、結果的に相場価格よりも価格を下げざるを得ないことが生じてきます。
最初の高額査定が原因で、本来得られたはずの利益を失い、時間も失うことになってしまうわけです。
価格の最終決定権者は売主
ここが最も勘違いされているポイントですが、売出価格の最終決定権者は売主です。業者が提示した査定額がそのまま売出価格になるわけではありません。私たち不動産業者が提示する査定額はあくまで「売れるであろう価格」です。基準から大きく外れた価格で売主が売り出さないようにアドバイスする価格が査定額と思ってください。
だからこそ、アドバイスとなるべき査定額が変な理由で高額査定になることが本末転倒なのです。
売却後の手元に残したい金額が具体的でそれが譲れなければ、希望する価格で売り出してかまいません。ただし、それが適切な価格なのか、最終的に売主の損にならないのか、プロのアドバイスを不動産業者から聞いてみてください。
高額査定がメリットになる場合
高額査定のデメリットを強く伝えてきました。しかし一方で、高額査定が売主にとってメリットになる場合もあります。
「仲介」ではデメリット、「買取」ではメリット
不動産売却の方法には、「仲介」での売却と「買取」での売却の2種類あります。
仲介と買取の違いはこちらの記事をご覧ください。
仲介での売却は「エンド売買」とも言い、一般個人の買主を募集する売却方法です。
買取での売却は、プロの不動産業者に不動産を売却する方法です。
買取は不動産業者が安く買い取り仕入れ、リフォームや建築を行い再販売します。そのため、相場価格の6割程度で売買されます。
つまり、買取での売却の場合、最も高く買ってくれる業者に売却した方が得なので、高額査定を提示してくれる業者に売却することが大切です。
同じ高額査定でも、仲介か買取かで損得が分かれます。買取での売却を希望する場合は、高額査定を提示してくれる業者を探しましょう。
なお、買取で業者同士を競わせても、仲介での売却額を超えることあり得ませんので、1円でも高く売りたい場合は、買取ではなく仲介での売却を選択しましょう。
一括査定登録業者はほぼ「仲介業者」
一括査定サービスに登録している業者はほとんどが「仲介業者」です。そのため提示される査定額は仲介での売却を想定していますので、これを競わせても無謀な割高価格にしかなりません。買取での売却を希望する場合は仲介業者にその旨を伝えましょう。仲介・買取両方の査定額を提示してくれます。その価格を踏まえて、売却方法を選択してもいいでしょう。
複数の不動産業者を比べるポイント
ここまでの説明で、査定額を競争させても意味ないことがわかりました。
では、何を比べれば良いのでしょうか?
不動産業者を比較するポイントは次の3点。
【比較ポイント】
●営業マンの誠実さ
●売り方(販売戦略)
●査定額の根拠
営業マンの誠実さ
営業マンの人柄や誠実さは自然と見てしまいますね。不動産売却では担当営業マンは売主にとって最も信頼できるパートナー・サポーターにならなければなりません。だからこそ、人柄、話の丁寧さ、謙虚さなど、最低限の部分は比べるべきと思います。感覚的な話になってしまいますが、大切な要素です。
売り方(販売戦略)
不動産業者間で最も差が出やすいのは売り方(販売戦略)です。
●周辺へのチラシポスティングの有無
●他業者への広告許可の可否
●ポータルサイトへの掲載有無
などの戦術面。
さらに、ポータルサイトのレビュー数の変化によってどのように戦術を進めていくのかなど、先の見通しも立てている業者は頼りになります。
査定額の根拠
査定額の高い低いを比べるべきではありませんが、提示した査定額の根拠は聞いておくべきです。
営業マンが査定額を提示するために、どのような状況を踏まえて査定額を提示しているのか、詳しく説明できるかできないかで営業マンとその不動産業者の力量が測れます。最も説得力がある業者に売却を依頼することが大切です。
まとめ:不動産売却一括査定サービス利用時の高額査定に注意!業者比較で本当に大切なポイントは?
今回の記事では、高額査定が提示される仕組みや、業者を比べるポイントについて詳しく解説してきました。
多くの方が「価格を競わせて高額査定をもらう」と誤解しています。この誤解の原因は様々にあるのですが、インスタグラムやフェイスブックなどのSNSに掲載されている一括査定サイトの広告の存在は大きいと思います。価格を競わせるように促すことができれば、一括査定サイトは最適で、結果的に一括査定サイトが儲かります。
「売却価格は売主が決定権者」という当たり前の認識が世の中に広まれば、無謀な高額査定は提示されず、売主の損失を防ぐことができるように思います。
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